研究の目的・概要/期待する成果

1. 研究分野

本研究プロジェクトは、大学教育の質的改善を進める実践的研究である。アクティブラーニング(参加型・能動的学習)と呼ばれる教授法の要は、学習者相互の協同的な学び合いである。高等教育における協同的学びの指導は、初等中等教育以上に、学び手の自立を意図せねばならない。そこで、学生の自立を促す深い内省を可能にする対話および相互評価のプロセスをプロトコル分析や半構造化インタビューなど質的調査技法を用いて教育心理学的に研究する。また、そうしたプロセスを確かにし、促進させるフィードバックシステムをクリッカー(レスポンスアナライザー)やe-ポートフォリオなど教育工学の手法を使って開発する。

2. 研究内容

本研究は、大学の授業に協同的学びを組み入れる方法を開発・検証する。 社会人基礎力など、学生の自立やコミュニケーションスキル育成が強調される中で、自立を準備する協同の価値は未だ十分に検証されず、その意味で新たな教育理論・授業技術が求められている。本プロジェクトは、大学授業における協同的な学びの創出メカニズムの研究を通じて、新たな教育方法の構築を目指す。主な研究内容は次の5つである。

  1. アクションラーニングではコーチの導きにより学習者の気づきが内省に深化する。この深まりを生むグループダイナミクスをビデオ分析し、通常の授業におけるグループ学習の質改善の方途を明らかにする。
  2. 葛藤を含む討議において、視点交換を行うことで問題の本質的理解が促進される。このとき、討議の主体者相互の共感的対峙を可能にする対話をプロトコル分析し、対立を創造に変えるコミュニケーションスキルの訓練を学習活動に埋め込む方法を開発する。
  3. LTD方式の話し合い学習では、同一教材に対する理解・解釈の違いを埋め合う作業が重要である。その作業を促進させるメンバー間の相互作用についてビデオ分析し、教師の効果的な介入方法を明らかにする。
  4. 上記の知見を踏まえ、学習者の自立を促す協同的な学びを維持・発展させるために有効なフィードバック情報を含むe-portfolioシステムを開発する。学習履歴に基づく定期的な振り返りの蓄積と、それを活用した励ましの相互フィードバックを継続することでグループポートフォリオを作成し、相互に学びの自己評価を行うことで自立的な学習態度形成を促す。
  5. 継続的なグループ活動を通じて自律的学習態度の育成・強化を試みる場合に、グループメンバーの学習特性とコミュニケーションスキルが大きく影響する。そこで多重知能や学習スタイルなど、学習者の学習特性を測定し、これらの要因の最適な組み合わせパターンを分析し、学生の人間的成長に資するプロジェクト学習の指導法を確立する。

3. 期待される成果又はその公表計画

本助成により整備する実験環境には、同時に複数の発言を文字化できる会議用音声認識と、動画をタイムラインにそってセグメント化する機能を搭載した授業収録・分析システムを用意する。これにより、授業分析の準備に費やす時間を大幅に短縮し、複数回の授業記録を学生ごとに多層的に分析することが容易になる。そして、グループ内対話により内省が深まっていくプロセスが解明できる。アクティブラーニングの質を左右する協同的な学びの深化プロセスを明らかにすることは、大学教育の喫緊の課題である学生の主体的学修を促進する教育方法の開発・普及に大きく寄与することになる。

研究の成果は2年目以降、適宜、関連学会(教育心理学会、グループダイナミクス学会、教育工学会、大学教育学会など)、学術論文へ発表していく。最終年度(3年目)には大学における協同的学びをテーマにした国際シンポジウムを開催し、成果の共有に努める。