実践事例紹介

「教育学特講:多文化教育と演劇」

2016/03/07

基本情報

担当教員名 三津村 正和
手法 フォーラムシアター
難易度
ワーク グループワーク
規模 中教室

教育目標

多文化教育は、米国における1960年代の公民権運動を経て発展した学問分野で、その目的は、マイノリティの視点からマジョリティ文化が構築する支配的な言説や社会の中の見えない差別構造を批判的に考察し、多文化共生社会の構築を目指す上での教育理念及び実践課題を学ぶことにある。多文化共生社会とは、人種・民族のみならず、社会経済的地位、ジェンダー、性的指向、障がい、言語、宗教、地理、年齢を含む多様な文化集団の当事者性が確保された社会をさす。こうした多文化教育は、学習者に他者文化への共感的理解また自己文化への批判的省察という自発的な内面活動を促す。しかし、そのような内発活動は従来の教師-学習者という一方向的な教育では誘発され難い。そこで、学習者が主体的に取り組めるような学習環境の環境を実現するための有用なアプローチとして、本授業ではフォーラムシアターの要素を取り入れた参加型演劇をクラス内活動に導入し、クラス外活動としてグループで演劇作品(エスノドラマ)の制作にあたる。

したがって、本授業の到達目標は以下の5点を設定している。

①米国の多文化教育の理論・実践を学び、その比較的視野から日本の多文化教育周辺事例を考察する分析力を培う。
②異なる文化基盤に共通して起こる抑圧―被抑圧の構図を批判的に考察することのできる視点を獲得する。
③学習者は、自らの意志において内面化された抑圧的また従属的な思考経路の意識化を図り、そこでの学びと気づきを、その後の「建設的な対話」においての新たな価値の創造に活用する。
④マイノリティの当事者性の視点に立脚し、より包摂的な学習環境を設計することのできる人間教育の教師としての技能・態度を獲得する。
⑤主体的な学びへの姿勢を、協同学習の文脈(他者との互恵的協力関係)において育成することで、自律的な学習者(即ち、学び続ける教育者)へと成長する上での自己規範を確立する。

授業概要

本授業(全15回)の流れは以下の図のⅠからⅥの流れをとる。エスノドラマとは、エスノグラフィーとドラマを接合した方法であり、以下のⅠからⅢがその過程である。ⅣからⅥはフォーラムシアターの過程であり、本授業ではエスノドラマにフォーラムシアターの要素を取り入れ、マイノリティが仲間と答えのない問題に対して知恵を出し合ってより現実的な解決策を出し合いエンパワメントしていく過程を、学生が経験することを狙っている。

Ⅰの問題・関心の設定では、以下の5テーマから学生自身が自分たちが取り組むテーマを選ぶ。

  1. 在日3世、4世
  2. ブラジルからのニューカマー
  3. LGBT
  4. いじめ
  5. 児童虐待

選んだテーマに沿って、学生たちは課外で当事者にインタビューをし、当事者が抱える問題を明らかにしていく。その当事者の語りは、学生が逐語で文字起こしするため、エスノグラフィーの手法を経験する。こうした文字化したデータをもとに、学生はモノローグの脚本、または、通常の演劇の脚本を第9回から第12回の授業で製作する。時としてインタビューがかなえられないことが発生するが、その場合は先行研究から被抑圧者の語りを脚本化する。

第13回と第14回の授業では、グループごとに学生たちが制作した脚本にそって実演する。実演後の振り返り課題が自宅学習として出され、第15回では準備してきた振り返り内容を学生間で共有し、討論を行う。

残念ながら、下図が示すⅤの過程、すなわち、聴衆参加し、新しいエンディングが即興で複数回演じられる過程は時間的な問題により本授業では行っていない。しかしながら、他者に寄り添うことができる創造的共感力の滋養は教師を目指す教育学部の学生には特に必要であり、そのための問題設定を多文化教育という枠組みで行い、その実践のツールとしてフォーラムシアターを加味したエスノドラマを本授業では使用している。